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 昨年10月7日に始まったパレスチナ自治区ガザでの戦闘では、約4万2千人のパレスチナ人の死者が出ています。負傷者は9万7千人超に上ります。ガザで人道支援にあたる国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の清田明宏・保健局長は、ヨルダンのUNRWA本部で医師や職員を統括し、この1年でガザにも3度入って支援を指揮してきました。本業は医師で2010年から現職の清田局長に、現状や支援の課題を聞きました。

 ――この1年間のガザの人々の生活環境の変化をどうみていますか。

 残念ながら、悪化の一途をたどっています。国連機関、NGOを含め、多くの団体が懸命に支援を届けようとしていましたが、ガザの人々の状況が良くなったとは全く言えません。ガザ地区に22カ所あるUNRWAの診療所で、機能しているのは5カ所だけ。1万人の重症患者が海外(ガザの外)での処置を待っています。

 人々の生活が良くならないのには、いくつかの理由があります。

 ――どんな理由でしょうか。

 まず、上下水道などの基本的なインフラが機能していないことです。街のあちこちにゴミの山があり、汚水が流れ出しています。塩素がなく、水道の消毒もできないので細菌が増殖しやすい状況になり、感染症が広がりやすくなっています。9月にガザ全域で56万人の子どもたちへのポリオワクチン接種ができたことは成果ですが、こうしたインフラが改善されない限り、感染症は減りません。

 そして、医薬品の不足です。クリニックには約90種の薬がありますが、その半分の在庫がありません。イスラエル軍による5月のガザ南部ラファでの軍事作戦の後、倉庫から大量の薬が市民のグループに盗まれました。イスラエル軍による制限に加え、こうした略奪の懸念から、約3カ月間、薬を搬入できませんでした。

 私自身、「何をやってもうまくいかない」という焦りがあります。無力感とともに感じるのは、国際社会の不条理です。

 ――どんな不条理でしょうか。

 例えば薬の略奪は、イスラエ…

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